タイムドメイン
タイムドメインというスピーカーシステムをご存知でしょうか。「株式会社タイムドメイン」創設者である由井啓之氏が長年の研究の成果物「タイムドメイン理論」に基づいて作られたスピーカーシステムです。タイムドメイン理論、ものすごくものすごく大雑把に言うとスピーカーユニットを振動が絶えず発生するエンクロージャーや地面に固定せず、スピーカーユニットを空中に浮かせた状態でユニットの1000倍程度の重りで仮想的に接地(安定していると思われる引力により地球に固定する)させて外部の振動源から切り離して、音源(音楽など)を忠実に再生していこうという理論です。実際に、富士通のパソコンにこの理論に基づいた小型スピーカーが付属していたことも有ります。
先週の中頃に、ある会でこのタイムドメイン製品を一部作ったり販売されている「株式会社シロクマ」の方とお話させて頂く機会がありました。店長と聴く音楽ジャンルは違いますが、スピーカー理論について詳しく伺うことが出来ました。店長は以前にも書いていますようにバックロードホーン大好き人間ですが、「点音源」「フルレンジ(マルチスピーカー嫌い)派」「無指向性」などの内容には共通するところが有ります。長岡式の「スワン」と言うシリーズのバックロードホーンシステムは小型のフルレンジスピーカーをエンクロージャー部分から伸ばした首の上(スワンのように)に取り付けて点音源を実現したものです。小型のフルレンジスピーカーユニットなら高音もなんとか再生できるので一発でもなんとかいけます。無指向性は難しいですが、スピーカーユニットの取り付けボックスを丸く雨滴型に仕上げれば音の回り込みを利用して指向性の問題を少し改善できます。ただ、複雑な構造なので自作するのは相当根性を出さないと無理です。店長のは只のバックロードです、根性がないので。そんなお話を効かせて頂いてる間に「家に試聴機を送るので一度きちんと試聴してみたら」と言ってくださって、後日「TD-101 midTower
(スピーカー2本+アンプセット)」が送られてきました。
さて、実際に聴いてみた感想です。聴くジャンルは、クラシック・ジャズ、ビッグバンド、ソウル、ダンス、ディスコ、バロック等比較的小編成で音の立ち上がりを要求される曲や大音量でスピード感が必要な曲が多いです。それと、ディスコ音楽やジャズピアノなどは極低音(30Hz以下位)と極高音(15,000Hz以上)が出ないと迫力がいっぺんに無くなってしまいますし、小編成ゆえの定位の正確さが必要です。つまり耳では聴こえないと言われている音域まで音が出ないと力のない音になってしまいます。TVをつないでAV(Adult Videoではありません)環境を作りSF作品を見ることも多いのですが、これも定位がしっかりしていないと、エイリアンの吠え声、UFOの通過音などが聴き取れません。
このタイムドメインスピーカーの場合、人の声が非常に自然に聴こえます。それと驚いたのは生活音(電話とか玄関ベルや廊下を歩く音)などが本当に自然に聴こえてきます。テレビ視聴中に「あ、電話かかってきた」って間違うレベルです。次に無指向性スピーカー特有の特性、自分の位置から遠くに設置しても近くに設置しても音量に大きな差を感じない点です。無指向性のスピーカーが自然に感じるのはこの効果が大きいです。同じ部屋の中で家族の話し声が遠くに感じることはまず無いと思います。また、同じ理屈で無指向性故に音の定位がはっきりわからないというのも特長です。これは設置室内の壁からの反射とか、今回の店長宅では設置が他のスピーカーの前とかで特定周波数の音だけ吸収されたりしているのが影響していると思います。位相制御で定位を出している音源でもフォーカスが甘く感じられます。
それと、生活音が生に近いということはいわゆるスピーカーの速度、スピード感があると表現されますが、チェンバロとかドラムの音がバックロード+ツイーターの組み合わせより弱い感じがしました。特に低域の立ち上がりのスピード感は大きな差がある印象です。逆にバックロードでは喋り声が2Wayの弱点か特に女性の声がやや不鮮明になります。これは20cmフルレンジスピーカーユニットの振動板がサイズ故奇数歪が出やすくかぶった感じになるのも原因だと思います。このタイムドメインの小径シングルスピーカーの方が歪が出る周波数が高いので自然に聴こえます。
とかなんとか言っていますが、普段20cmフルレンジバックロードホーンシステムに、コンデンサー1本で20,000Hzでハイパスさせているシステムに成れているというのが大きいでしょう。それも、学生時代から長岡式バックロード20cmで音楽を聴いていたのでなおさらです。一時、パナソニックの30cmウーハー+ドーム型スコーカー+ドーム型ツイーターというシステムを使っていましたが、かったるい印象は拭えませんでした。
このタイムドメインのスピーカー理論は仮想接地というのが肝ですが、ボイスコイルを使ったダイナミックスピーカーでは物理法則の制限故、振動板で発生する奇数&副次歪の影響は避けられないですし、コーン紙の逆三角錐の形状からくる指向性も含めてなかなか理論通りにならないような気もします。できれば、全面平面のコンデンサースピーカーを使って真の平面スピーカーで駆動したほうが理論に近づくと思いますが、コンデンサースピーカーで低音を出すには大面積が要るので実現は困難です。昔パナソニックなどであった、スピーカー振動板を平面に仕上げたものにしてもいいのかもしれません。
もう一つ気になるのが、専用のアンプが付属しているのですが、そのアンプとスピーカーをつなぐのに専用の線が必要になります。スピーカー側がRCAプラグ形状に成っていてアンプとつなぐ線も非常に細い点です。入力はミニプラグとRCAピンプラグに対応しています。このミニプラグのおかげで、手持ちの「Amazon Echo」のイヤホーンジャックに差し込んで音楽を聴いたりガイダンスを聴いたり出来ます。また、Raspberry pi 3 で使用中のインターネットラジオ(Volumio2)をつないで一日中音楽を流しっぱなしに出来ますし、上の音の印象から考え事とか読書でながら音楽が出来ます。これは、非常に良い印象でした。
店長、この文を書きながら、無重力状態の中ではどういう仕組みで理論を実現するんだろうと考えています。
さて、試聴機をお借りして1週間になるのですが、前から気になっていた「タイムドメイン理論」に触れられたのは貴重な体験でした。これを買うかどうかは、まだ決めかねていますが、店長の嗜好とは少し違うような気がします。でも、技術的にはすごく興味が有りますし、悩んでしまっています。
皆様も、ぜひ試聴していただきたいと思います。特に、クラシック系の音楽を聴かれている方には魅力的だと思います。店長は、音楽の趣味がやかましい系ですが、手持ちのバロック系は再現性が高いし、真剣に聴かなくても十分にリラックス効果が出ます。文で書くのは難しいですが、非常に優秀なシステムと言って間違いないと思います。オーディオは奥が深いので、お小遣いが。。。技術好きの店長は目新しいものへの物欲の悩みが多いですから。。。。