第二十二回 女性の喫煙と肺癌

若い女性に肺癌急増
煙草は胎児にも悪影響


 先日、小生の所属医師会の生涯研修学術講演会で「胸部外科における最近の動向」と題する講演を聴いた。講師は旭川市にある国立道北病院の外科医。この病院の前身は結核療養所で、昔は肺結核の手術が主な仕事であったが、近年結核の手術は殆ど無くなり、肺癌が主な対象になってきたとのこと。

 肺癌の急増は全国的な傾向で、特に若い女性の患者の占める割合が大きくなりつつあるという話が強く脳裏に刻まれた。

 北海道は女性の喫煙率が全国一で、喫煙習慣が肺癌の急増に影響しているのではないかと当然考えるが、講師によると因果関係を証明するデータはないという。しかし相当深い関係があると推測しても間違いではないと思う。
 更にその先生の話によると、肺癌でも早期に発見できれば外科手術によって根治することが出来るという。しかも昔のように半身を取り巻くような大きな皮膚切開ではなく、せいぜい15センチ長の比較的目立たず、機能障害も残さない小切開で手術が出来るようになっているとのことで、それなら肺癌など恐るるに足らずと高を括る人が出てくるかも知れない。
 最近の女性は大胆、勇敢で、男より強くなっていますからね…。

 煙草の害は既に言い尽くされた感があるが、子供を産み育てる女性にこの際、是非知っておいて欲しいのは胎児への影響だ。喫煙する母親の胎児の臍の緒は、非喫煙者のものより明らかに細いことが分かってきた。
 臍帯血には血液を作る造血幹細胞がたっぷり含まれている。これを輸血すれば白血病や再生不良性貧血の患者さんを救うことが出来る。以前は医療廃棄物として捨てられていたこの臍帯血を冷凍保存する臍帯血バンクが作られたのは2年前のことだが、この臍帯血バンク設立活動の中でこの戦慄すべき事実が明らかになったとのことだ。
 臍の緒が細ければ当然胎児の発育も悪くなる。出生児に障害が起こる確率も高くなる。これは重大な問題でこれから母親になる人には是非お知らせしなければならない。
(イラスト:Yurie Okada)

 煙草生産者のことも考慮せねばならないなどと、なんとも国の健康政策は煮え切らない。しかしここは強権を持ってしてでも、煙草の害から女性と子供を守って欲しいと思う。

 実は小生の病院の待合い室にも煙草自動販売機が置かれている。もちろん喫煙室を設け分煙してはいるが、職員の抵抗が強くてなかなか撤去できない。病院から撤去してもちょっと外に出るとあちこちに置かれている。
 煙草ばかりか、酒類、ポルノまがいの雑誌まで自動販売機で売られている。青森県の深浦町という町では、屋外のたばこ自動販売機をなくす条例案を議会に提出するという。
 理屈で煙草は健康を害すると分かっていても、なかなか喫煙の誘惑を断ち切れない人が多いようだ。ここは法律で日本中から一斉に煙草自動販売機を消すしかない。ついでに駅のホームの酒の自動販売機や、通学路の俗悪雑誌のそれも追放して欲しい。

    【関西ジャーナル
2001年3月25日号掲載
  

 ご意見・ご感想をお待ち申し上げております