第十六回 都会のストレスと田舎のやすらぎ
都市と田舎で寿命が逆転
都会の孤独感が心身蝕む
「IT」活用し田舎でビジネスを


 日本人の健康寿命が延びて名実ともに世界一の長寿国になったようだが、都会に生活する人と田舎に生活する人の寿命の差を経年的に調査してみると面白いことが解る。
 20年前の調査では医療環境の良い都会のほうが明らかに長寿者が多かったが、最近の調査ではこれが逆転していることが明らかになったという。
(イラスト:Yurie Okada)

 東京都立大学都市研究所の研究によると、1980年まで平均寿命全国1位だった東京都が、1995年には男性が20位、女性が33位まで下がるなど大都市圏の順位が低下した。
 一方で長野県など地方の順位が上昇し、その差は広がる傾向にあるという。
 地方の医療環境が都会並みに向上し、寿命の差を生み出すほどのレベルの差が無くなってしまった現在、都会生活のストレスや水や空気の汚染が寿命の延びを抑えているようなのだ。

 東京砂漠などという言葉は最近はあまり流行らないようだが、小生の若い頃には演歌の常套句の一つであったように記憶する。都会の雑踏の中で感じる皮肉な孤独感は、歌の文句に収まっているうちはロマンチックな感じもあるが、孤独であることの心身に及ぼす影響は予想以上に広く、深いようだ。
 先日NHKが会社の近くの食堂で一人寂しく朝食を摂るサラリーマンが増えていると報じていた。
 もっとも通勤地獄にもまれ、仕事の忙しさを生活の充実感と取り違えているような猛烈サラリーマンには、朝食の孤食が寂しいなどと感じることもないのだろうが…。しかしそんな都会の生活が深く静かに都会人の心身を蝕んでいるようなのだ。

 孤独な生活が血圧を高くし、睡眠を妨げて健康を害するとの研究が、米シカゴ大学の研究チームによってなされ米心理学会で発表されてもいる。そんな研究を裏付けるかのように、数日前小生の患者の一人が意気消沈して打ち明けてくれた。東京で働いていた37歳の独身長男坊が心筋梗塞で急逝した。食事も満足にしていなかったようだと…。隣の部屋で誰かが死んでいても、腐臭が漂うまで誰も気がつかないというような、最低限の近所付き合いも失われてしまった都会のアパート暮らしを続けていると、これまで順調に延びてきた日本人の健康寿命も頭打ちになるかも知れない。

 最近は経済再生の切り札として、国をあげてIT、ITの大合唱だが、ただ経済効率だけを求めてIT革命を推進するのではなく、人々が真に幸せを感じながら仕事ができる健康な生活・勤労環境を創るための手段としてこれを利用して欲しい。ITをうまく利用すれば、自然と人情の豊かな田舎に住みながら世界を相手のビジネスも展開できるのではないか。

    【関西ジャーナル
2000年9月25日号掲載
  

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