第十四回 全人的医療の勧め
 局所主義の西洋医学
障害を受容しながら生きるため
全人的なリハビリテーション医学を

 先日東京国際展示場ビッグサイトで開催された日本リハビリテーション医学会学術集会に参加した。リハビリテーション専門医の資格は10年毎に再審査され、規定の研修単位を取得していなければ資格を剥奪される。
 年に1度のこの学会で取得する単位は、なかなか研修の機会に恵まれない田舎の開業医には貴重なもので、この度も2日間みっちり勉強させてもらった。

 研修講演の一つに「ホリスティックQOL医学・医療の樹立を考えるー脊椎外科医の反省から」と題するものがあり、大変感銘を受けた。演者は高名な脊椎外科医で長年医学部の教育・診療に携わってこられた人だが、局所にばかり目を奪われて、人間を全体として診ることを忘れた西洋医学、特にアメリカの工学技術偏重医学を厳しく糾弾された。
(イラスト:Yurie Okada)
 西洋医学を教育された医者は、悪い臓器を見つけ出し、これを修復するという局所主義の医療に陥りがちだ。整形外科領域について言えば、例えば背骨の変形を遮二無二矯正して長大なる内固定金属で矯正位を保持するなどという凄まじいことをする。これが時々計画通りの位置に収まらず脊髄神経を傷めたりする。こんな手術で障害者になってしまった人の実例を示しながらの熱演だった。
 そんな話を聴いてきた後で、北海道新聞の地方版でこんな患者の体験談を読み、さもあらんと思った。この人は今年77歳になる男性だが、長年つきあってきた腰痛が悪化し好きなスカイスポーツが出来なくなったので、なんとか治りたいと札幌の某脊椎外科の専門医を受診した。
 アメリカ仕込みの明快なお医者さんで、腹を切って腰椎を固定する手術が必要と診断した。治りたい一心で早速切って下さいと頼み込んだが、ベッドの空きが無く、やむなく入院予約だけして帰ってきた。しかしこれが幸いした。
 入院までの2ヵ月の間、少し運動量を抑え、更に弟に勧められて遠赤外線照射を含む民間療法を試してみたところ、なんと手術が必要といわれた腰痛がすっかり治ってしまったというのだ。

 医者が人間を全体として診ることを忘れると、往々にして患者に害悪を及ぼすことになりかねないといことだ。自戒を込めてつくづくそう思う。
 高齢化社会の宿命で種々の障害をかかえながら生き抜かねばならない人が多くなる。ハビリテーション医学は障害を治すことに主眼を置くのではなく、障害を受容しながら人間的生活を全うしようとする人を援助するものだ。
 局所の障害だけに目を奪われることなく、残る機能を十分に生かして社会生活を営ませることが大切だと考えるリハビリテーション医学は、それこそ全人的医療と言い換えることもできる。今、まさに必要とされるものだ。


    【関西ジャーナル
2000年7月25日号掲載
  

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