第十二回 飽食時代の生活習慣病
 最小限に食べ、よく働くこと
伝統的な日本食が理想的

 近年日本では糖尿病が激増している。糖尿病は自覚症状に乏しく、診断されても放置している人が多いが、長年放置していると動脈硬化や神経障害が進んで、体中に様々の病変を起こしてくるやっかいな病気だ。

 尿毒症になって人工透析を受けることになる患者さんの多くが糖尿病によるものである。遺伝的素因が関係しており、親兄弟に糖尿病がある人は気を付けたほうが良い。
 さてこの糖尿病が激増している原因だが、一口で言ってしまうと飽食時代の運動不足とストレス過剰だ。歴史的に見て、日本民族が飢饉の恐怖から解放されて、食糧不足の心配をしなくてもよくなったのは戦後のことである。
 長い年月、豊富とはいえない食料で食いつないできた日本人は、少な目の食生活で活動できるような体質的特徴を作り上げてきたと言える。進化の過程でそういう体質を持つ人だけが選別されて生き残ってきたのだ。

 そういう特徴を持つ日本民族が、突然とも言えるほど急速に飽食環境に突入してしまったことが糖尿病激増の一つの原因である。人間を含め地球上のすべての生物は、それぞれの自然環境の中で進化を遂げてきた。日本人もこの日本列島の自然の中で自然淘汰を繰り返しながらその風土に適合する体質的特徴を作り上げてきた。
 自分を長く育んでくれた大地の恵みである食糧を最小限に食べ、よく体を動かして働くことが健康の基本だ。敗戦以来アメリカ文化の浸透によっていまなお日本人の生活習慣が乱されつつあるようだ。肉と乳製品の多量摂取によって病気の様相も欧米に近くなっている。

 最近、新谷弘実先生の著書『胃腸は語る』を読んで大いに啓発された。先生はニューヨークで開業されている胃腸内視鏡診断・治療学の世界的権威である が、3万人以上の胃と大腸を内視鏡で観察した経験から、人相ならぬ「胃相・腸相」によってその人の健康状態をほぼ間違いなく推測することが出来るようになったという。
(イラスト:Yurie Okada)

 肉・乳製品を多食する人の腸相はきまって汚く、生活習慣病予備軍になっているという。アトピー性皮膚炎などは、インターネットにホームページが開設されるほど多くの人が悩まされているようだが、肉食が多くなったことも一つの原因になっていると先生は推察している。

 食事と健康が密接に関連していることは常識であるが、胃相・腸相からそのことを実証した先生の仕事には感動させられた。一方、連日テレビから流れ出るコマーシャルは、これでもか、これでもかと手抜き料理の飲み食いを奨励するものばかりだ。こんなテレビに子供のおもりをさせている若い親たちも、少しはその重大な影響に思いを馳せて欲しいものだ。

 また、下品な悪ふざけのようなコマーシャル番組を流し続けるメディアに、その重大な影響を危惧する良識は無いのだろうか?と腹立たしく思う。
 因みに新谷先生の勧める食事は、伝統的な日本食に近いものだ。玄米を含む 雑穀を主食とし、魚介類で動物性蛋白を取るのが胃相・腸相を良くするのに有効とのことだ。
 胃相・腸相を良くすることは多くの生活習慣病の予防につながり、癌による死亡率をも下げる結果になるものと期待される。


    【関西ジャーナル
2000年4月25日号掲載
  

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