第六回 蘇った国民病結核 日本各地で集団感染多発
21世紀は「細菌との戦いの世紀」
基礎体力増進の重要性再考せよ

 3年程前から日本各地で結核の集団感染が発生するようになり、ついに今年(1999年)7月、厚生省は結核非常事態宣言を出すに至った。国民病として国を挙げてその撲滅に力を入れてきた結果、結核は既に過去の病気という認識が一般的になっていた。そこに青天の霹靂のごとく結核の集団感染多発の事態である。
 今年新聞で報道された事例だけでも20件近くにのぼる。公立中学校に起こった3件を除くと、これらの多くが近代的空調設備を持った地域の中核病院、いわゆる「よい病院」に起きていることは皮肉である。

 このような病院には重症患者が集まりやすく感染の機会が多い上に、部屋が密閉されているため換気が悪く菌が屋外に出てゆかず停滞する。これらの菌が埃に付着して院内を巡るから、集団感染が起こりやすくなるのである。医師や看護婦、医学生などが感染するとセンセーショナルに書き立てられ、パニックになりそうな雰囲気もある。
 しかしパニックに陥ることは避けたいものだ。結核に感染しても、発病するのはその中の一部の人だけだ。感染しただけで大騒ぎすることはない。どういう時に発病するのか。
 それは体の抵抗力が衰えて結核菌を押さえ込めなくなった時だ。昔は、子供の時に感染して自然に免疫を得る人が多かった。特効薬のストレプトマイシンが発見されるまでは、仮に発病しても特別有効な薬は無く、ただきれいな空気を吸って十分休養し、体力増進をこころがけて自然回復を待つだけだった。

 多くの人が亡くなったのは事実だが、一方で自然回復して元気になった人も多く、結核患者の減少は生活環境と栄養状態の改善に平行していた。
 結核に限らず、癌さえも基礎体力の強弱で発病したり、しなかったりする。これまでの四半世紀、日本人はよく効く薬に恵まれて簡単に病気が治ってしまうものだから、油断して自らの基礎体力を増進することの重要性を忘れてしまったと思う。
(イラスト:Yurie Okada)

 酒だ煙草だドラッグだと不摂生を続ける若者、過度のダイエットにとりつかれた女性たち、ストレス過剰の労働者など、基礎体力(免疫力)の衰えた人々に結核は発病する。インスタント食品を愛用することによる栄養バランスのくずれ、運動不足、睡眠不足なども発病を助長する。
 これらの悪条件を排除することは何も結核予防のためだけに大切なのではない。健康増進の一般的な必要条件だ。

 薬の効かない菌に犯され始めた現代人は、21世紀が新たな細菌との戦いの世紀になることを自覚しなければならない。新薬の開発と新たな細菌のイタチごっこが、これからも続くと予想される。新薬の御利益に預かることばかり期待していると、今回のような思わぬ落とし穴に落ちる。健康を考え直すいい機会ではないか。
 ただ、現実に発病者がでている現時点においては、早期発見と早期治療が重要である。咳や痰が2週間以上続く「風邪」は、一応結核の除外診断を受けた方がいいでしょう。

    【関西ジャーナル
1999年9月25日号掲載
  

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