第五回 高齢化・少子化社会の健康問題
「高齢者の力」引き出す社会システム構築を効率よい生活で少子化も解消

 最近何かにつけて、高齢化・少子化社会の到来を危機的にとらえる言動を耳にすることが多い。医療費問題、年金問題その他、金に関する問題が山積して、政治の舵取が難しくなっていることは誰の目にも明らかだが、多くの人々の口から出てくる意見がおおむね紋切り型で、将来の不安だけを掻き立てるような暗い意見が多いのはいただけない。

 社会の高齢化が急速に進んでいることは統計的に明らかではある。この問題に関して新年(平成11年1月27日)の新聞に載ったジョージ・ソロスのコメントは面白かった。
 「日本に高齢化問題は存在しない。60歳、あるいは65歳を定年と定めて仕事が出来なくなるような社会のシステムを変えさえすれば、未来の風景はがらりと変わるはずだ」と。

(イラスト:Yurie Okada)


 まだまだ仕事が出来る元気な老人が仕事を取り上げられ、毎日ゲートボールだ、パークゴルフだと遊びまくっている姿は健康といえば健康だが、こういう老人にもっと仕事をやってもらえるようなシステムにすれば、真に健康的で充実感のある老後を過ごしてもらえるのではないかと思う。65歳以上は介護老人予備群だと決めつけて融通のきかない制度を作るから、ますます問題がややこしくなる。
 高齢者文化の研究を目的とする「エルダー・マーケティング研究会」の調査によると、60歳代の61%、70歳代の40%の人々が「まだまだ現役で頑張れる」と回答したという(共同通信、平成11年2月6日)。

 少子化問題の論議にしても、将来年金を負担する人口が減るから大変だというような、実に視野の狭い意見しか出てこない。少子化がそんなに大問題なのだろうか?世界の人口爆発から食糧問題が、来世紀には現実の問題となる可能性が高いが、ならば人口は減るほうがいいという意見は単純すぎるのだろうか? 少ない人口で効率良く生活する方法を考えれば、新たな視点が得られるのではないか。
 生産人口が減るのは困るというが、知的労働はかなりの高齢まで出来るし、単純肉体労働はロボットに任せるようにすれば、その問題は解決できる。むしろその方が、現在のように失業率の上昇に一喜一憂する状態よりましなのではと考えるのは、素人考えに過ぎないのか…。

 健康とは単に病気でないということではない。精神的に充実した生活が営まれてこそ、健康なのだ。老人医療費負担がきついといって大騒ぎするのではなく、その力をもっと引き出すような仕組みを社会システムとして考えてゆけば、高齢者は生き甲斐を感じつつ歳に応じた仕事を続けられる。
 そうすれば彼らはもっといきいきと健康的に生活できるし、結果的に医療費の節約につながるだろう。また年金の支給開始年齢を引き上げることも出来て、一石二鳥、三鳥の政策となるだろう。

 ただ医療費に関しては誤解のないように。日本の国民総医療費は、他の先進国と比較すると決して高くはない。むしろ国民総生産比で言うと非常に低い。1998年の統計ではアメリカ14%、ドイツ10.5%、フランス9.5%であるが、日本は7.2%と、先進国中最低である。 この少なすぎる医療費で、言い換えると極めて貧弱なマンパワーで、日本の医療機関は相対的に非常によくやっているというのが公平な見方だ。

    【関西ジャーナル
1999年8月25日号掲載
  

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