第四十二回 (最終回) 標準医師数の見直しを

医療実績を評価し法改正を


 平成16年度から、新卒医師に対して2年間の臨床研修が義務化される。去る2月10日に札幌市内のホテルで厚労省による説明会が開かれた。従来都市部の大学病院中心だった研修病院が地域の病院まで拡大するため、札幌医大の名義貸し問題の背景ともなった道内の慢性的な医師不足の改善が期待されるそうだ。

 「研修プログラムを充実させれば全国から若手医師を集められる」と厚生労働省職員が強調していたが、名義借りをせざるを得ない過疎地の病院には無縁の観念論だ。

 標準医師数なるものを根拠の明確でない計算式で機械的に算出し、それに合致しないからといって違法医療行為・不正請求だと医師や病院を摘発するのが果たして正当なのか。

 百歩譲って、そのような基準を設けることの必要性を認めるとしても、医師の経験年数や専門医資格の有無、診療実績などを全く考慮せず、医師であればどんな医師でも1人としてカウントすることが正しいのか。

 法律は法律だから、一応書面上は医師数を満たして監督機関の顔を立てねばならぬと考え、その結果出てきた緊急避難的対策がいわゆる名義借りによる辻褄合わせだ。

 新たな臨床研修制度を前にして、大規模市中病院では臨床研修生を受け入れて医師不足のペナルティを免れようとの思惑が見え隠れしている。先の説明会での厚労省職員の説明は、それを奨励しているとしか思えない。

 研修中の医師をもカウントすることにより、法定医師数は満たされたから良しとするのは、まやかし以外の何物でもない。まして医療過疎地には研修病院に指定される条件を備えた病院など皆無なのだから、名義貸しの問題はこれで解決だ、などとはとても言えないはずだ。

 根本的に医療法の標準医師数なるものを見直さねば、問題の解決には決してならない。人間の作った全ての法体系は、所詮一過性の有効性しか持ち得ない欠陥品だ。現実に合わなくなった法律をそのまま現場に当てはめようとすれば、現場で努力している人間を殺して本末転倒の結果を招きかねない。
筆者
(イラスト:Yurie Okada)

 研修医を1人と数えるなら、医師の経験年数や専門医資格の有無、地域における医療実績などを加味して2人力、3人力の医師を現実的に認めるように法を改正すべきだ。

 例えば、長い間看護婦の静脈注射は法的には禁じられた医療行為だったが、現実には看護婦が静脈注射をしてきたし、またそれくらいの事が出来なければ看護婦教育をした意味は何処にあるのかと小生は思っていた。

 しかし、もし誰かが悪意をもって監督官庁に通報すれば、本人もその雇用主も法令違反に問われる不安が常にあった。この法律は、実状に合わないとしてようやく昨年廃止された。何を今更と思ったのは小生だけではないはずだ。

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 畏友折目社長の勧めと励まし、それに人をその気にさせる絶妙のおだてに乗せられて、田舎医者の様々な思いを拙文に綴ってきた。その彼が、余りにも早く、殆ど唐突にこの世を去ってしまった。
 彼との約束を曲がりなりにも果たし得た満足感を胸に、この連載を終えたいと思う。
 =了=
 
 
    【関西ジャーナル
2003年3月5日号掲載

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