第三十七回 ワールドカップに思う

日本代表の金髪に化学物質への無警戒さを危惧


(イラスト:Yurie Okada)

 先般日韓で共同開催されたワールドカップサッカーでは、日本と韓国の思いがけない活躍ぶりに、サッカーには全く興味の無かった小生も何日間かテレビの前に釘付けになった。

 印象的だったのは、ボールをめぐって繰り広げられる完成された肉体の動きの素晴らしさと、かてて加えて選手たちの髪の色だ。自然の髪のままで出場していた選手は殆ど居なかったと思う。どんな色に染めようと個人の美意識の問題だから、とやかく言う気はないが、日本人の金髪に美しさは感じなかった。対照的に韓国ヒーローの、流れるような黒髪の輝きに新鮮な感動を覚えた。

 それはさておき、染髪料による健康被害に無関心でいることは好ましくない。先日ある新聞で、染髪料でアレルギー反応を起こした例を報じていた。染髪料のほかにも実に多くの化学物質に現代人は日常的に接触しているが、最近こんなに無警戒でいいのかと不安を覚えることがある。
 特に若者は染髪料のほか、どぎつい香水やらマニキュア・ペディキュア、アイシャドウなどに不感症になっているようだ。先日は、幼い我が子の髪を茶髪に染め上げた母子に外来で遭遇し唖然とさせられた。香水については、コンサートで隣り合わせたおばさんの、気分が悪くなるようなきつい臭いに閉口したなどと言う投書などがあり、若者だけの問題では勿論ない。
 視野を地球的規模に広げてみると、農業の近代化により、驚くべき大量の化学肥料、農薬・殺虫剤が地球上に振りまかれ、環境破壊・健康被害を加速しているとの警告がアメリカのシンクタンク「ワールドウオッチ」から出されている。近視眼的な効率一辺倒のやりかたが、持続可能な経済成長を不可能にし、人類の生存そのものを危うくしているという矛盾を生んでいる。

 あらゆる生物との「共生」が、21世紀を展望するキーワードの一つであることは多くの人の認めるところだが、高度に文明化された現代生活の中でこれをどう具体化してゆけばいいのか明確な指針は見あたらない。寄生虫や、極普通の病気の原因にしかならない細菌を、強力な農薬や医薬品によって駆逐してしまった結果、喘息やアトピー性皮膚炎などのやっかいな病気や危険な耐性菌を新たに作り出してきたいう事実を考慮するとき、寄生虫・細菌とさえもある程度の共生状態を維持することが、人間の健康維持には必要なのではないかとの考えに到達する。

 抗菌グッズなどが持てはやされているが、細菌を全て殺してしまえば清潔で健康になるはずだなどという間違った考えを、儲け第一の観点だけから無垢の消費者に教え込むのは犯罪的でさえある。

 ワールドカップの金髪日本人から、やや話を飛躍させ過ぎたかなとも思うが、過ぎたるは及ばざるが如しのことわざを改めて味わいなおしてみる時だ。

    【関西ジャーナル
2002年7月25日号掲載
  

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