第三十四回 保険診療報酬

医療費削減目的に改定


 今年度の保険診療報酬改定では、制度発足以来、初めて切り下げが行われた。単に切り下げが行われたと平静に受けとめることのできない、制度の根本を揺るがす重大な政策的意図を感じる。誰でも、何時でも、何処でも平等に医療の恩恵が受けられるようにというのが、世界に誇るべき日本の医療皆保険制度の根本理念だが、これが侵されようとしている。

 診療報酬10万円以上の手術については、個々の手術の年間症例数を主な指標として、一律に手術の「施設」基準を設定し、手術報酬に大幅な格差が導入されるのだ。例えば膝の人工関節手術では、年間50例以上の実績が無ければ手術料が30%減額される。「外科系医師の経験・技術を軽視するものであり、到底見過ごすことはできない」と外科系学会社会保険委員会連合(外保連)も強く批判している。

 同じ医者が同じ手術を沢山やれば、学習効果によって治療結果も良くなることは当然だし、そのような腕のいい外科医に手術を受けたいという気持ちもよく分かるが、腕のいい外科医がその駆け出しから腕が良いわけではない。現在の手術数だけを指標にして施設を限定すれば、外科医の研修の場を十分確保することができなくなることは目に見えている。現在腕の良い外科医もいずれはこの世から消えてゆくから、やがては国民の手術需要に応えることが出来なくなる。

 診療報酬の高い高度な手術を要する患者は、特定の医療機関に移送してまとめて手術してしまえ、その方が成績もいいし結果的に効率的ないい医療ができると言っているようだ。いかにも合理的だが、一般人の心情を解しない一部の専門家−医療分野・経済学分野を含めて−の意見が強く反映しているように思われる。
(イラスト:Yurie Okada)


 東京や大阪、その他の大都市ではそれでも大問題はおこるまい。しかし人口が10万人程度の地方都市では、診療報酬を30%も値切られては採算がとれないと、手術を断念する病院が大多数だから、手術を受けたくても受けられない患者が出てくる。大きな病院に行ってやってもらえと言うのは簡単だが、遠くの病院まで行かされる患者の負担は決して小さくはない。

 北海道では広大な地域を幾つかの医療圏に分けて、それぞれの地域で完結する地域医療計画を推進しているが、この政策と明らかに矛盾するものとなる。

 今回の改定は最初から最後まで医療費削減だけを目的にしたものであり、医療の質の向上を図るというのは後でくっつけた言い訳に過ぎないと小生は見ている。

    【関西ジャーナル
2002年4月25日号掲載

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