第二十四回 健康オリンピックと貧富の差

「健康寿命」を世界一に
貧富の差がそのまま医療の質に反映すれば
日本の強さは失われる


 アメリカ合衆国の国民は健康志向が特別強く、雑誌でもテレビでもインターネットでも、また単行本でも健康問題は一大テーマになっている。世界総人口の4%を占めるに過ぎないアメリカ国民が投ずる医療費は、世界の総医療費の半分近くに達している。

 それにもかかわらず「健康オリンピック」では25位前後で低迷している。世界一の金持ちで最強のアメリカがこんな惨めな結果だとは断じて納得できない。

 こんな記事が先日のニューズウイーク誌(3月5日号)に載っていた。ワシントン大学公衆衛生学部の先生が書いたものだ。この先生が「健康オリンピック」と呼んで いるのは、平均寿命と乳児死亡率の2つの指標を比較して、世界各国の国民の健康度をランク付けするものだ。

 1970年には15位だったアメリカは、1990年頃には20位に落ち、更に最近は25位前後に甘んじているとのことだ。

 一方日本はそのアメリカを尻目に目覚ましい躍進ぶりだ。1960年には23位だったものが1977年には世界一になってしまい、今や日本人の平均寿命はアメリカ人より3年半ほど長くなっている。日本人男性の喫煙者数はアメリカ人男性のそれより2倍も多いにもかかわらず、喫煙に起因する死亡者はアメリカの半分だという。

 さてこの驚くべき事実の背景を色々検討して、結局日本人の平均寿命を世界最高にまで押し上げ世界最低の乳児死亡率を実現した要因は、日本社会の平等性である、とこの先生は結論付けている。

 アメリカを「健康オリンピック」で上位にランクするための最良の処方は、金持ちと貧乏人との記録的ともいえるギャップを埋めるための社会的施策であり、決して医者が出す処方ではないと主張している。

(イラスト:Yurie Okada)
 日本がこれまで維持してきた医療制度のコスト・パフォーマンスがかなり高いものであることは以前ここで指摘したことがある。それがたとえ医療従事者の過重労働と超平等主義の医療供給体制によるものであるとしても、評価すべき点も多々あることを改めてこの記事は教えてくれた。

 しかしこの数年、保険医療費殊に老人医療費の高騰にうろたえて、公的保険で負担する医療費に上限を設定しようなどという意見が出始めている。後は個人の経済力に応じて私的な医療保険を利用すればいいだろうというような冷酷な提言だ。

 確かに現在のままの医療保険制度ではいずれ破綻することは目に見えている。医療制度改革が必要なことは論をまたないが、短期的な財政の辻褄合わせだけを考えて、貧富の差がそのまま受ける医療の質に反映するような制度にすれば、健康オリンピック での日本の強さは失われるだろう。

 もっとも「平均寿命」は寝たきり長寿の老人もカウントされているので、平均寿命が世界一だからといって単純に健康度が高いとは言えない。これからは 「健康寿命」を世界一にすることを目指し、真に世界の模範となれるよう努力しようではないか。

    【関西ジャーナル
2001年5月25日号掲載

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