平成14年干支 「壬午」について

人物の任用に最も心すべき歳
 平成14年の干支は、壬午(じんご、みずのえ・うま)である。
 干支の意味するところから、平成14年がいかなる歳であるかと考えてみたい。
――― 河西善三郎 関西師友協会理事 ―――


負担に任(た)え、責任を荷う
壬は「任」「妊」「へつらう」の3義
午はさからう・そむく・おかすの意


■壬について

 壬は音が「ジン」又は「ニン」。訓よみでは「みずのえ」で、中国五行思想の木火土金水の水で、水の兄が壬、弟が癸(キ)で訓よみでは「みずのと」である。壬は十干の9番目、方角では北を指す。

 壬の最古の形は殷代の甲骨文ではIで、金文ではである。白川静博士の『字統』では、この形をその上に物をのせて工作する叩き台の象形としている。金文の中黒は、叩き台を強く支えるための補強物である。つまり壬の最も古い形は、鍛冶(たんや)のための台で、工具の一種だったのである。

 『正字通』(明代の辞書)に「壬は任と通じ、任(にな)うなり」と解している。また、『説文通訓定声』(清代の書で『説文解字』の解説書)には「壬は何かを担うなり」とし、壬の字は上下は荷物で、真中の横長は上下を人が担っている象形だと解している。いずれにしても、壬は任に通じ、任は重い荷物を担うことを意味する。

 『国語』(春秋時代の各国の歴史を記したもの)の魯の国の歴史に「重きに任(た)ふる能はず」という語があり、この任は任載、つまりその重さに任えることを意味する。『詩經』大雅篇にも、「これを任い、これを負ふ」とあり、負うとは背負うで担ぐことである。

 以上のことから、壬は任に通じ、任は物を乗せ、その負担に任(た)えることで、負担に任えることから責任を荷なうとか、任務を受けるとか言う意味が生じてきた。その責任とか任務を他人に任せるとき、任命・委任というような義が生じてきたのである。『論語』泰伯篇に、「任重くして道遠し」ということばがあり、君子は人びとに道を守らせ、道を教える重要な任務を持っているという意味がこのことばに含まれているのである。

 漢代、許慎の著した古典的名著『説文解字』という辞書に「壬は北を指し、陰気が極まって陽気が生じて来る。この陽気によって大地に万物が生じる」とある。大地に万物がはらみ始めるので、そこで壬に女偏をつけて「壬は妊なり」としている。『説文解字』は当時の陰陽五行思想に基づいて書かれているので、このような説が生まれてきたのである。

 司馬遷の『史記』の律書にも、「壬の言たる、任なり、陽気が万物を下に任養する」ということばがあり、壬は妊に通じる説明が当時あったことがわかる。つまり、壬は妊なりとする説である。

 壬にはまた「へつらう」という説がある。さきに紹介した『説文通訓定声』に「壬はという樹の名に仮借して用いられている。という樹は軟弱な樹で、そこから人ということばが生まれる。後漢末の服虔という学者は、「『人とは侫人なり』と解している」とある。侫人とは上に諂い、下に威張る、本当は意志の弱い人間を指すことばなのである。

 以上から、壬には次の3義がある。
 1.壬は任で、任は重い負担に任(た)えることを意味し、責務を担うことに通じる。
 2.壬は妊に通じ、物を孕む(妊む)ことを意味する。
 3.壬はで侫人に通じ、上に諂う軟弱な人間を指す。

■午について

 午は「ゴ」と発音、十二支の7番目、「うま」と訓じる。『干支新話』(安岡正篤著)に「午はどういう意味を表すのかというと、午の上の形は「ノ一」と書き、地表を表している。下の十の横一は陽気で、縦|は陰気がしたから突き上げて正に地表に出ようとする象形文字である。だから午は忤なりで、そむく・さからうという意味になるのです」と説いてある。

 これは『説文解字』に「午はさからふなり。五月には陰気、陽気に牾逆(ごぎゃく)して地を冒して出ずるなり」とある説明を字の構成上から説かれたのである。白河静博士の『字統』によれば、午の甲骨文字の形は杵の象形文字である。杵は古代呪器として邪悪を祓う道具に用いられた。この祭儀を御という。午はこの祭儀の初形であった。この邪悪を祓うまつりは、悪霊に逆らって防御するのであるから、午には忤らうという意味が生じると述べておられる。
 このように午は原初的意味においても、陰陽五行的解釈においても、さからう・そむく・おかすという意味を持っている字である。


国民に希望を与える歳に
小泉総理と閣僚は力を合わせ改革断行すべし

■平成14年壬午の歳はいかなる歳か

 以上、壬と午の字の持つ意味を考察してきたが、この両者の意味から平成14年はいかなる歳であるか、またいかにあるべき歳であるかを考えてみたい。

 先ず、壬には3つの意味があった。
1. 壬は任で、任ぜられた責務を担い全うする。
2. 2.壬は妊に通じ、物を孕む(妊む)。
3. 3.壬はで、侫人に通じ、上に諂う軟弱な人間。
ここから考えると本年には、政界・官界・財界その他各界において、指導者にその責務を担い全うできる人物を得ているか否かが最も大切なこととなる。仮にも侫人、表面は堂々としていても、実は人に諂う軟弱な人物がその地位にあると、そこに問題を孕み、国家や社会に害毒を流すこととなる。本年は人物の任用に最も心すべき歳である。

 このことは支の午の意味を合わせ考えるとき、更に明らかになる。さきに述べたように、午は忤で、そむく・さからうという意味がある。今年、平成13年の干支は辛巳で、辛はつらい・からい・いたみ等の意味と同時に新に通じ、痛みがあっても旧い悪習を打破し革新を断行することを意味し、巳には新たな活動開始の義がある。時あたかも小泉内閣が出現し、聖域なき改革を宣言し、国民の圧倒的支持を背景にその実行に取り掛かった。しかし、総論賛成・各論反対の国民的性格は改革の具体的内容が明らかになるにつれて、省益・族益に反すると見るや、改革反対の動きが表面に次第に現れ始めた。

 その動きが活発化することを示すのが、午の歳であることの意味である。

 小泉総理の聖域なき改革が成功するか否かは彼の指導力とともに、彼が任用した各省大臣がその責務を実行できる人物であるか否かにかかっている。

 来年みずのえ・うまの歳がいかなる歳であるか。また、いかにあるべき歳であるか、それは小泉総理が彼の任用した閣僚と共に力を合わせ、彼の改革に逆らい反対する勢力を打破して改革を断行・成功させ、経済の疲弊によって、希望をうしないつつある国民に希望を与える歳であり、又そうあるべき歳である。

 前回の壬午の歳は、昭和17年で日本軍に逆らう米国海空軍とのミッドウェー海戦で
大敗し、日本の敗戦が決定づけられた歳であった。



アメリカに起きた同時多発テロ事件と干支

 9月11日、米国のニューヨークとワシントンにおいて、イスラム原理主義者による言語に絶する凄絶な同時多発テロが起こり、米国は国家の中枢を揺るがすような打撃を受けた。多数の人命と建物に甚大な被害を受けた。米国大統領はこれを新しい戦争だと意義づけている。辛巳の歳にこの大事件が起きたことは、辛に酷い・辛いという意味と新しいという意味があることに合致する。

 米国はこのテロに対して報復活動を開始した。テロリストの指導者と目されるビンラディン氏を匿うアフガニスタンのタリバンに対し激しい空爆を行い、又特殊部隊を送り込み、ビンラディン氏を捕らえ、テロリストを絶滅するという目的にむかって戦いを始めたのである。一方、タリバンもこれに対し激しい抵抗をし、アラブ諸国家、諸民族に対し、米国に対して抵抗するよう呼び掛けている。米国は又テロに反対する諸国家に対し、米国に同調するよう要請している。

 米国と同盟関係にある我が国も自衛隊をアフガンに派遣して、憲法に違反しない範囲において米国を支援している。米国はこのテロ絶滅の戦いは長期に亘ることを覚悟している。

 平成13年辛巳の歳に起きた、この米国とテロリストとの新しい戦いは、来年平成14年壬午の歳、どういう展開になるのか? 我々は問題の解決にテロという手段は絶対に許容することはできない。しかし、イスラム原理主義に立つテロリストは、死をも恐れぬ固い信仰心に立っている。午の意味するように激しく抵抗するであろう。2002年は世界は政治的にも、経済的にも平和な歳とはならないであろう。ただテロリズムに反対する世界の有力な諸国家が、テロ撲滅を任務として米国に協力する体制が整うならば、この新しい戦いの解決の曙光が見えるのではなかろうか。

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